湯灌(ゆかん)とは、棺に納める前に故人の体を洗い清め旅立ちの身支度として、白装束や好みの衣装への着替え、メイクを施すことです。
湯灌(ゆかん)は、かつては遺族や近親者、近所の手伝いなどが中心となって行っていましたが大変な作業のため簡素化されてきました。
今回は看護師による清拭と葬儀社による湯灌についてのお話しです。
目次
病院で行う清拭(せいしき)・エンゼルケアとは
看護師による亡くなった後の清拭(処置)はどのような事をするのでしょうか。
呼び方は様々あり、お亡くなり後の「清拭」や「処置」、「エンゼルケア」などとも呼ばれています。
葬儀社側からは、病院で行われる清拭は「処置」と呼ばれることが多いです。
「清拭」の内容に関しては、病院によって異なりますが、一般的な内容としては、のどや鼻、おしりなどに脱脂綿で詰め物を行います。これは、体液などが出ないようにして、故人の尊厳を守るための大切な処置です。そのほかには体を拭いてあげたり、髪の毛にくしを通したり、薄化粧を施すなど、病院によって清拭の呼び方や対応する内容は異なります。
つまり、「退院の準備を行う」という事です。
病院で行う清拭は湯灌とは異なります
看護師さんによって行われる清拭(処置)と葬儀にて行われる湯灌を混同する方がいらっしゃいます。ではいったい何が違うのでしょうか。
清拭は看護師、湯灌は納棺師
湯灌に関しては、葬儀社スタッフが行う葬儀社もありますが、一般的に専門的な技術を持ち訓練された「納棺師」が行います。「整復師」と呼ばれることもあります。
清拭は帰り支度、湯灌は対面が目的
先にお話しした通り、病院での清拭は体を拭いたり詰め物をしたりなどお体のケアが基本です。
とはいえ、病院によって行う範囲は異なり、薄化粧をはじめ髪を洗ったり、爪を切ったりする病院などもあります。
これらに対してお葬式に行われる湯灌は対面するということを前提としています。お葬式では家族親族はもちろん、一般の会葬者は、柩の近くで故人のお顔を見るといった事も多々あります。このため、可能な限り生前により近づけるように心がけています。
男性には髭をそり、女性にはお化粧を施します。時には病気でやせてしまった方には、頬をふっくらと見せるために脱脂綿を口に入れることもあります。
湯灌ではお体を清め着替えを行います
入院患者は通常浴衣やパジャマを着ていますが、亡くなった後も病院で着替えることはほとんどありません。
亡くなったのちは病院から自宅などへ移動し病院着のままお布団でご安置され、後にお葬式に向けて湯灌を行います。
湯灌では家族・親族によってアルコールに浸した脱脂綿で故人様を清めます。
もし、キズや出血場所があった場合は、目立たないようにしたり、整復したりします。
終了後は、仏教徒の場合は仏衣(ぶつい)に着替えを行います。神道(神葬祭)であれば神衣に着替えます。
すべて納棺師主導で行うので、参加者が難しいことをする必要はありません。所要時間は40分~60分ほどです。
湯灌の種類
湯灌では家族や親族の面前で行われます。
名称は地域によって異なりますが、「湯灌の儀」や「湯灌・納棺」、「納棺の儀」とも呼ばれることもあります。
湯灌と呼ばれるなかには、以下の通り大きく分けて二つの種類があります。名称は地域により若干異なります。
ボディーケアシャワー
簡単な表現では、「お風呂に入っていただく」ということです。納棺師によって専用の湯船を用意します。湯船にはシャワーが出るようになっているタイプもあり、シャンプーで髪を洗うことができます。
集まった親族の前で行いますが、納棺師は訓練されており、お肌を見せないように行うので家族でも安心です。
古式湯灌
湯船などは使わずにお布団の上のみで行います。お清めは脱脂綿で行い着替えを行います。
費用的にはボディーケアシャワーより安価です。
病院以外で亡くなった場合は清拭をしない?
病院では、看護師さんによる清拭は重要であるとお話ししましたが、病院以外で亡くなる場合もあります。
例えば、不慮の事故や自宅で亡くなっており、その死亡が明らかな場合や、死亡の原因がわからない不審死である場合は、病院を経由せずに警察署にご安置されます。
警察では、事件性の有無を調べるために検案が行われます。その後警察の判断で遺族に返されることになりますが、この時は看護師が行うべき処置(清拭)がなされておりません。
このような場合は、葬儀社が警察にご遺体をお迎えに行く際に納棺師を手配して亡くなった後の処置を行います。その後搬送とご安置を終えて改めて湯灌を行う事になります。
ただし、ご遺体の状態が良くなく遺族の前で湯灌が行えないと葬儀社が判断した場合は、警察署にて納棺を行う場合があります。
逆さ水とは?
湯灌に使用するぬるま湯は「逆さ水」を使用するとされています。
由来としては、ご浄土の世界は逆さになっているということから来ているといわれています。
逆さ水とは、私たちの生活でぬるま湯を作る時は、「熱いお湯を水で薄める」ことによって作られますが、逆さ水は、「水にお湯を足してぬるま湯を作る」という逆の手順を踏みます。
近年では、逆さ水で湯灌を行う事は少しずつ少なくなっているようです。
「湯灌・納棺」について
納棺(のうかん)とはお棺にご遺体を納める行為ですが、葬儀の際にはスケジュールとして「湯灌・納棺」と続けて表記する場合があります。
意味としては湯灌を終えた後、引き続き納棺を行うといった意味合いになります。
湯灌によって故人様の体は清められ、さらに着替えによって身支度が整えられます。その状態で納棺することになります。
納棺を行う際には、布団に寝かせられている故人様を持ちあげてお棺に納棺することになります。
納棺師や葬儀スタッフが主導ですすめられますが、故人様のお体にふれられる機会はもうほとんどありません。ご遺族や近いご親戚も一緒に参加していただきたいです。
もし、持ち上げることが難しい方は手を添えるだけでも結構です。感謝の気持ちを添えてご納棺をしてさしあげましょう。
まとめ
・看護師による「清拭」(エンゼルケア)は主にお体のケアとなり、行う内容は決まってはおらず、病院によって大きく変わります。
・湯灌はお体を清める事でもありますが、本来の目的は着せ替えや身支度を整え元気であった生前に近づけ、多くの方にお会いできるようにします。
・湯灌の主な種類には、湯船を持ってきて行われる「ボディケアシャワー」とお布団の上でのみ行われる「古式湯灌」の二通りがあります。